特権階級を象徴する別荘

戦前までの大臣クラスの大物政治家は庶民の暮らしとはかけ離れた贅沢ができる特権階級であり、世間もそれを黙認していた時代であったともいえます。旧華族の政治家が所有していた別荘は祖先から継承した土地が多く、関東地方では大磯がその代表的なエリアであり、現在でも「大磯」の名は別荘とリゾート地の代名詞ともなっています。

交通の便が現在とは比較にならないほど悪いうえに冷暖房設備などがまだなかった時代のことです。夏場に休養を兼ねて避暑地の別荘で過ごすことは、いわば大物政治家としてのステータスでもあり、政府の要人にとってはさまざまな議案を策定する恰好の場でもあったのです。

神奈川県中郡の大磯町は中世以前より相模国の国府が設置されていたほど関東エリアでは要衝となっていた地域でした。江戸期には東海道が南北に走る関東南部の重要な拠点ともなっており、東西を結ぶ宿場町として大いに栄えました。北東部から延びる丘陵地帯が町全域を覆う特殊な地形であり、その影響で関東エリアでは他の地域と比較して夏場は涼しく冬季は温暖という保養地としては理想的な環境の地として知られています。広い海岸線から相模湾を望む、その美しい景観は歌川広重の浮世絵「大磯」などでも有名です。

近代国家へと導いた政府の重鎮

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